夢魔が見せるもの

熱帯夜の悪夢

皆が走り出す。
思ってもいない方向へ。

慌てて、手を伸ばす。
止めるために。

けれど誰も気付かなくて。

そっちへ行ってはいけない。
そっちへ行く理由、それはもう意味のないもののはず。
よく考えて…気付いて…。

この姿が見えてない。
この声が届かない。

全てではなくても。
少しでも関わるならば。
…気付いて、ほしい。

ねぇ、どうか。
足を止めて…考え直して…。


それはまるでレミングの大移動。
べつに、その先は死につながってはいるわけではない。
けれど過酷かもしれない…何もわからない道程。

祈って…叫んで…手を伸ばして…。
気付いた人は、いたはず。
届いた人も、いたはず。

けれどもう止まらない。
最初の理由ではない意思がそこに絡んだから。
走ることが、進む理由となった。

もう…
誰も止まらない…！！





体が跳ねる。
飛び起きて、自分が夢を見ていたことを知る。
呼吸が荒い。嫌な汗が流れる。

熱帯夜と夢魔が見せた悪夢。

止まらないなら、もう。
そう、走る理由はすでに別のもの。
それが変わってしまったならば。
…例え届いても、無意味でしかない。

何も言わず、見続けよう。