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そこは美しい森だった。
雄雄しい大樹が根を張り、様々な花が咲き乱れ、果実はたわわに稔り、香草が香りを振りまく。
様々な植物が同時に存在しながらも、調和を崩さない森。
この森が、自分を呼び出した相手のものでなければ…。
訪れる度にそんな感情が生まれる。
とても素晴らしい森。
けれど所有者故に、訪れたいとは思わせない森。
進むほどに気分が沈んでいく。
案内された場所は、開けた泉だった。
そこに相手はいた。
この国の…いや、この世界の若き王が。
王はなぜか人型を取っていた。
その背後には白で統一された優美なテーブルと椅子が置かれていた。
彼らにとって必要とされない茶器や菓子まで揃っている。
「遅かったな」
相手はいきなりそう言った。
唐突に呼び出しておきながら、それへの謝罪はない。
本来ならば、呼び出しは事前に余裕を持って行われる。
今回はそれを完全に無視した行動だった。
不愉快ではあるが…今は細かいことにいちいち突っかかっても仕方ない。
「申し訳ありません、陛下。突然のことで手間取りました」
現在の平穏なこの世界において…ただの族長候補でしかない、彼が。
緊急で呼び出される事態など、あるわけもない。
今回の呼び出しは、個人的なものだろう。
準備された茶器類がそれを裏付けているようなものだと思った。
走らせた視線を誤解したのか、王は満足そうに笑う。
「昔話でもしようと思ってな。お前のために取り寄せたのだ、ありがたく思えよ」
そう言われても、ありがたいとは全く思えなかった。
善意だけでこんなことをする相手ではない。
何か、裏がある。
彼はそう確信していた。
「いつまで立っている? 座ったらどうだ」
彼は鷹揚に告げる王に黙って頭を下げると、自分も人型を取り、正面に座る。
控えていた女性がそれぞれに茶を注ぎ、菓子を取り分けた。
茶の準備が完了すると、王は手振りのみで召使を下がらせた。
これでその場には完全に二人きりとなった。
「やってみれば悪くないものだな、こういうのも」
しばし香りを楽しんだ後、王が言った。
どう反応したらいいかわからず、彼はあいまいにうなずいただけに留めた。
会話が続かない。
気の利かない奴だと思われているだろうが、特に話したいこともない。
それどころか、今すぐに帰りたいと思っているくらいだ。
こんな空気では茶の味すら満足にわからなかった。
沈黙が横たわる。
やがて、茶を空にした王が再び口を開いた。
「人形を作ったと聞いた」
さらりと、世間話のような口調だった。
しかしそれは彼の心臓を射抜くほどの衝撃を与える言葉だった。
(何故、知っている!?)
彼の人形の存在を知るのは、腹心の部下と族長、そして人形の傍に据えた監視者のみ。
何よりも信頼できる仲間であり、それぞれの理由から決して人形の存在を他言しない者達だけだというのに。
「私の情報網を甘く見てもらっては困るな」
意地の悪い笑みを浮かべて、王が告げる。
それは、つまり…。
「私に見張りをつけていたということですか」
茶を置き、正面から質問をぶつける。
いや、質問というよりは、確認を。
王は軽く眉を顰めて応えた。
「見張りなど人聞きの悪い…。好意で護衛をつけていただけだ。お前は『救国の英雄』なのだから、当然だろう」
「必要ありません。今すぐ止めさせてください!」
「まぁ、お前がそう言うならば良いだろう。だが今の話題はそれではない」
ずれかけた話題を引き戻す。
「女だそうだな。あの娘とお前の力を受け継いだと聞く」
そこまで調べたのか…。
不快さに耐えるため、テーブルの下で拳を握り締める。
この男が彼女の存在を口にするだけで、怒りと嫌悪が心を塗りつぶす。
「私はね、今になって後悔しているのだよ。下賎な出来損ないなどと言わずに、受け入れるべきだったと。少なくとも……あれがこの国へ助力した時、帰さずに留めるべきだった」
帰さずに…留めるべきだった…だと?
相手の意思などお構いなしか。
「第一の理由は、お前ではなく彼女こそが真の『救国の英雄』であること。第二の理由は、極端に薄まっていたとはいえ、我が血族の一員であることに変わりがないこと。…そうだろう?」
王は彼に同意を求めた。
確かに、王が理由としてあげたものは事実。
けれど頷くことはできなかった。
ただ、握り締めた拳にさらに力を込めるのみ。
何も応えない彼に、つまらなそうに鼻を鳴らして王は続ける。
「あの娘がこんなにも早く命を落としたのは、やはり人間の血が我々の持つ力に絶えられなかったのだろう。反対に考えれば、我々の住むこの世界で、その力に適した環境で暮らせば避けられたかもしれない死だ」
それは彼女自身判っていた。
けれど彼女にとって、『自分が属する世界』はここではなかった。
ただそれだけのことでしかない。
「そこで、人形なのだが」
王はそこで一旦言葉を切り、黙ったままの彼と改めて視線を合わせる。
「人形もまた、同じ……、いや、人形の方が、その確率が高いはずだ。誕生にお前が深く関わっているのだからな」
否定はできなかった。
その存在自体が、世界の異なるものの力で作られている以上…。
体が完全に耐えられるとは…保障、できない。
「王は何を仰りたいのですか?」
問いに王は笑った。
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貴方は 人目のお客様
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