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望まぬ道
彼は不機嫌だった。
これ以上はないというくらいに不機嫌だった。

理由は簡単だ。
誰よりも会いたくない相手に呼び出されたためだ。

「まったく、何の因果だか…。…ちくしょう」

毒づいて、ふわりと飛び立つ。
望まない会合へ向かうために。

どんなに嫌な相手だとしても、会わなくてはいけない。
今の彼には、責任という重く頑丈な鎖が絡まっている。
自分の感情のみで行動を決める立場ではない。

「本当に、なんでこんな…」

青く済んだ空に身をゆだねながら、意識は全てを決定付けた過去へと向かった。


この世界に戻ってきた直後。
力を使い果たし、ほとんど死に掛けていたような彼の元に、一族の長が尋ねてきた。
長は彼にこう言った。

「約束を覚えているか」

年老いた落ち着きを持った、懐かしい声。
彼はその感情に浸りながらも、ゆるく微笑みながら首を降った。

「俺には無理です。長も見てわかるでしょう。俺はもう貴方の後を継げるだけの力はない」

生きていることすら不思議なほどに疲弊していた。
ここまで何とかたどり着けたのも、気力による部分が大きい。
今はただ、体を休めなくてはいけない。

「俺は期待に応えることはできません」

頭を下げる彼に、長は静かに聞いた。

「お前はなぜ戻ってきた?」

責める響きはなかった。
それは、答えを知っていながらも、確認するための問いだった。

「生きるために」

彼は正直に答える。それこそがただひとつの理由。
彼はこの世界で生まれ、この世界とつながりをもつ存在だ。
契約者を失った状態では、異世界へ留まるだけでも消耗していく。
その状態で…さらに無茶を重ねた結果がこれ(現状)だ。

「…死なないこと。自由に動けるまで回復すること。そのために戻ってきました」

そのまま向こうに留まっていたなら、もうすでに彼の命はないだろう。
死ねない理由があったから、戻るしかなかった。

「ならば回復すればいい」

なんでもないことのように長は告げた。

「今のお前はただ消耗しているだけだ。一時的にな」
「ですが…」
「お前に決まったわけではない。お前は候補の一人となるだけだ」

反論を許さず、長は彼の言葉を遮った。
彼は戸惑いの色を瞳に浮かべ長を見つめた。
彼の記憶に残る長は、こういう選択の場面において、当人の意思を無視する強引なやり方はしなかったはずだが…。

「可能性を捨てるな。お前は私と約束したはずだ」
「それは…確かに…」

過去。
余りにも遠い過去。
契約者にとって彼が必要となくなった場合。あるいは契約者が死亡した場合。
この世界に戻り、長の後を継ぐと。

「けれど状況が違います」

幼いころに交わした約束。
あのころの未来は希望に溢れていた。
しかし今はどうだ…。

「長……俺はもう、夢を見れるようなガキじゃないんです」

生きるだけでも精一杯の自分に何ができるだろう。

「言ったであろう。ただの候補の一人と。気にするな、お前がそのままならば誰もお前を選ばん。……だが…」

いったん口を閉じ、長は彼を見つめた。
長い沈黙が横たわる中、再びそっと口を開く。

「感傷といわれても構わん。この年寄りに見せてくれないか。……孫の成長した勇姿を」

彼はなんと言って返せばいいかわからなかった。
なんだかひどく感動していた。
だから彼は頷いて、候補の一人となった…。




しかし。

「あれ、絶対ワナだよな」

亀の甲より年の功。
長は彼の性格を見抜いていた。
ごり押しは無理と諦めて、身内の情に訴えてきた。
彼の弱点を確実に見抜いた上での犯行(と言い切れるだろう)だった。

長は嘘をつくような性格ではない。
だから祖父としての気持ちも、偽りではないはずだ。
弱りきった自分に、身内の愛情は何よりも効く攻撃だったから、全てが吹き飛んでいたのかもしれない。
あの時はただ感動だけで胸がいっぱいだった。
感情だけで動くような人ではないということを知らないわけではなかったのに、そこに考えが行かなかったのは何よりの失敗だ。

なぜあれほどに候補となることを望まれたのか、その理由を今になって痛感している。

彼は以前、契約者の意思に従い、契約者と共にこの世界の反乱を鎮めた。
それは決して彼の意思ではなかった。
あくまで契約者に従ったのみだったが…。

その事実を前面に押し出され、今では救国の英雄に祭り上げられてしまっていた。
長の候補者の一人が『英雄』であるという事実は、彼らの一族に追い風を吹かせている。

「結局利用されてるだけじゃんか」

そこそこ回復したとはいえ、今の自分が『英雄』にふさわしくない状況であることはわかっている。
肩書きだけが先行して、中身が追いついてない。
溜息だけが出る。

そして…なによりも。
視界に入り始めた目的地が彼の心を沈ませる。

「まったく…冗談じゃねーや…」

さらにまたひとつ。
済んだ空に溜息がこぼれた。
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うさぎ:ライラ、リナ、ルナ、レナ、ロビン
保護者:ロスト
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