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生まれてから1ヶ月以上が過ぎた
けれど、『彼』はまだ見つからない。
会ったのはただ一度だけ…ほんの少しだけしか傍にいてくれなかった、私の創造主。

交わした言葉も少なかった。
『彼』は私に名前をくれた。
そして、紅玉の首飾りを、私の首にかけてくれた。
決して無くしてはいけないよ、と言って。

生まれたばかりの私は、頭がぼうっとして…状況を考えることができなかった。
今なら色々聞けるのに、その時はただ頷くしかできなかったのが、悔しい。

そのときのことを、思い出す。
私は本当に何もできないままだった…。




私は、眠っていた。
ずっと夢を見ていた。泣きそうなほど切ない夢を。
けれど、外からかけられた声がその眠りを破った途端、夢の内容は霧散した。
ぼんやりと目を開ける。

周囲は氷の壁だった。
卵のようだ、と思った。
硬い氷でできた卵の中に、体を丸めて浮かんでいるのだと思った。
けれど、上方からゆっくりと溶け出す『それ』を見て、違うということがわかった。
極細い、髪よりも細い氷が幾重にも重なり、壁のように見えていただけ。それらが独立して溶けていっている。
繭、と呼んだ方が近いのかもしれない…。
氷の繭が溶けだすと同時に、体を中空に支えていた力がゆっくりと失われていく。
やがて硬い氷の上に降ろされたが、冷たさも怖さも感じなかった。
氷は…水が形を変えただけ。自分を傷つけることはないと、既に理解していた。
座り込む私に構わず、繭はゆっくりと溶けていく。

『…繭が、崩れる…』
そんなとりとめのないことを、無感動に眺めながらぼんやりと考えていた。
溶け出した氷の向こう。
外の世界も氷で溢れていた。
岩と氷しかない、暗い洞窟。その底。植物など生えるはずもない極寒の地。
遠い上空に僅かな隙間でもあるのか、光が氷柱を乱反射してかすかながらも届いていた。
本来ならば、伸ばした手すらわからない、極僅かな光ではあったけれど…私の眼は全てを見ることができていた。
それを不思議と思う余裕もなかったけれど。
……繭が半分も溶けたころだろうか……その男と目が合ったのは。

「おはよう、レイ。やっと生まれてきてくれたね」

彼はそう私に言った。
声には聞き覚えがある。眠り続けた私の名をずっと呼び続けていた声は、この男のものだった。
私と同じ銀の髪、白い肌。よく似た顔立ち。違うのは瞳の色だけ。
『彼』は嬉しそうに私を見て、手にした何かを私の首にかけた。
それが何であるのか、認識するには少し時間がかかった。

「……くびかざり?」
「そう、大切な大切な……、今はもう、君の為の首飾り」

『今は』。
では、以前は別の誰かの物だったのだろうか。

「これはとても大切な物だからね。決して無くしてはいけないよ」

そう言って、座り込んだままの私の傍へと片膝をつき、幼い子供にするように私の頭をなでた。
触れた瞬間に、理解する。
私はこの人に作られた。そして今、この世界に生まれた。
どうやら、生きるために必要な知識は事前に全て与えられているらしい。
そうでなければ、こうやって会話することすら不可能だったはずだ。

回転の鈍い頭で、何とかそこまで考える。
知識はあっても、それをうまく組み立てることにはまだ時間がかかった。

「これでもう何も思い残すことはない。君が生まれてくれたこと…首飾りを渡せたこと…どちらももう終わったから、俺はもう行かなければ」

『彼』はそういって立ち上がった。
一人にされることがわかった。

「どこへ…いやだ…」

縋るように『彼』を見上げる。
けれど彼は首を振った。

「俺のやるべきことは終わった。もう留まるだけの力もほとんど残っていない。戻らなければいけないんだ」
「いやだ…ひとりはいやだよ…いかないで…」
「すまない。だがそれはできないんだ」
「いや…いや…」

『彼』と同じ色彩の中、唯一異なる色を湛えた私の瞳から、涙が零れ落ちた。
一人で取り残されるのは嫌だ。
『彼』の白いマントの裾を握り締め、泣きながら『彼』を見上げた。

「その眼で泣くな…『あいつ』と同じ眼で…」

私の瞳を見つめながら、けれど『彼』は遠くを見つめて…搾り出すように言った。
わけがわからないでいる私に、『彼』は教える。

私を作るとき、その核に既に亡き主の残した力を注ぎ込んだのだと。
私の瞳は、『彼』が唯一人と決めた主の瞳を受け継いだのだと…。

けれど私は。
このときの私は、そんなことなどどうでもよかった。
一人にされたくないだけだった。
縋りつく私に、『彼』は困ったように言った。

「いつか…そう、いつか。俺の力が戻ったら…あるいはお前が、『あいつ』と同じ力を手に入れることができたら……そのときは、会えるかもしれないな」

彼はそう言い、後ろを指差した。

「一人が嫌ならば、この先にカーシャという国がある。ここと同じ極寒の地だが、寒さに負けることのない賑やかな国だ。きっとだれかがお前の傍にいてくれる」

諭すように告げ、『彼』はそっと、私の手からマントの裾を引き抜いた。
どうあっても…ここに留まってはくれない。それがわかった。

「いずれ会えるときが来るかもしれない。そのためにも…強くなれ。自分で新しい家族を見つけ出せ」

それが最後の言葉だった。
彼は去り、私は残された。
言われた通りに、カーシャを目指して…辿り着いて…。



あれから1ヶ月以上、経つ。
けれどまだ……。

会えない。
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