種族登録

レイはロストによって作られた。
ロストは異界の龍。ゆえに、彼に作られたレイは、この世界の枠からはみ出してしまっていた。
住民登録の時にも、的確なものがなく、そのときは一番近いだろうと思った水の精霊を選んだようだが……。

もともと、レイは精霊ではない。
そして
ちょこまかとうさぎに変わる変則性。
このまま水の精霊と呼び続けていいものかどうかと、ロストは思う。
人の姿でいるときさえ、好んでうさぎの耳を出している。
まるでラビトニアンのように。

「今、外見的に一番近いのは、それなんだろうなぁ」

水の属性が消えたわけではない。
変わらずレイは水に愛されているし、一番得意なのは水系魔法だろう。

「……それでも、なあ」

ぽつりと誰もいない部屋で呟く。
今、レイは出かけている。
誰もいないからこそ、口に出せるものもある。

「どう考えたって、水よりうさぎの印象のほうが強いぞ、お前」

知らないうちに、どんどん手元から離れていっているようだ。

「……わかっちゃ、いたんだけどな」

この結果は。
いずれそうなることは、なんとなく、判っていた。
レイは龍にはなならないと。

「なんともうまくできているものだ」

つい先ほど届いた書類を見る。
レイはまだ返ってきていないから、当選したことにも気付いていないだろう。

通常は住民登録したら、その情報は変えられない。
水の精霊はその命が尽きるまで水の精霊として登録されたままだ。
けれど、動かぬ神が気まぐれを起こした。

民に選択の権利を与えると告知され…その権利のひとつがレイに与えられた。
しかも、本来ならば選べない種族を選べるという。

とはいえ。
それでレイの本質がどうにかなるわけではない。
生まれたときに決定された性質はそのまま。
自分の娘であるということも、水の属性を持つことも、何も変わらない。
住民登録を書き換えたところで、何か特別なことが起こるわけではないのだ。

それでもレイは喜ぶだろう。

いくつもの選択肢が用意されている。
レイは好きなものを選べる。
だが、レイが選ぶのなんて、決まってる。

外見そのままの種族。

「よかったな、レイ」

親としては、少しだけ寂しい気もするが。
ここは素直に祝うしかなかろう。
とりあえず、最初にどういってやろうか。

選ばれたことを教えてやるには、何が一番効果的か。
あるいは、どうすれば一番面白い反応を返すか。

そんなことを考えながら、レイが帰るまでの時間を楽しんだ。