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深い森の奥。
人形と見なされた少女が抱える死の可能性を指摘し、王は笑って言った。
「私にその人形をよこさないか」
と。
「…………は?」
一瞬、意味がわからなかった。
いったい何を言われたのだろう?
「我々の力を強く受け継ぐ娘が、別世界にいて良い訳がない。
死なせる前に人形をこっちへ連れてこい。
そして私が引き取る。死んだ娘の変わりに我が妻として迎えてやろう」
心の中で何かがはじけた。
怒りで目の前が赤く染まったような錯覚を覚える。
「申し訳ありませんが、それに関して私に決定権はありません」
「おかしなことを。あれはお前の作った人形だろう」
「いいえ、人形ではありません。血の繋がりはなくとも、レイは私の娘です」
王は眉を顰める。
疑問からではなく、不快ゆえに。
「…なんだと?」
「関わりのないものがここで人形と呼ぶのは構いません…私が我慢すればいいだけです。
けれど、関わろうと思われるならば……人形という考えはお捨て下さい。親として看過できません」
きっぱりと突きつけると、王は瞳に怒りを宿した。
「………お前が父親か。ならば母親は誰だというのだ」
問いながらも、王はすでに語られる名を確信していた。
そしてそれこそが王の怒りを引き出していた。
それがわかっていても『彼』は怯まない。決して譲れないものがそこにあったから。
「レイの核を構成する力が、誰ものものであるかはすでにご存知かと思いますが。
血としての繋がりはなくとも、レイは確かに私と――の力を受け継いだ、大切な娘です。
私はあの子の幸せを何よりも望みます。
たとえ王妃としてでも…それが――の身代りと判っている以上、あの子を差し出したいなどと思うはずもありません」
視線を逸らさないまま、そう言い切った。
睨みあいが続き、緊迫した空気が森を支配する。
「…つまり」
ややあって、剣呑な光を宿した瞳を眇め、王が口を開いた。
「お前は…いや、お前たち龍族は俺に歯向かうと?」
それは強烈な脅しだった。
拒否すれば一族を巻き込む。王はそう言っているのだ。
確かに族長候補が王の命令を拒否し、真正面から対立するならば、一族を巻き込む可能性がある。
いや、この王ならば、そうするだろう。『彼』はそれを疑わなかった。
「陛下は勘違いされておられるようですね。
私は最初に申しております。『私に決定権はありません』と」
これが切り札だった。
「……レイは確かに私と――の娘です。
私はこの世界の存在ですが、――は別世界の存在です。そしてレイも彼女と同じく、向こうに属する存在なのです。
我々には別世界の存在へ強制することはできません。
レイが行動し判断する全ての権利は、レイ自身にあるのです」
たとえそれが王であろうとも。
その権力も、世界の異なる地では通用しない。
その世界には、その世界の王がいて、その世界の法がある。
つまり、要求を拒否するしないの問題以前に、要求事態が実現不可能なものだ。
可能なものを拒否すれば、王は怒りに任せて反逆と断定するだろう。
しかし、この状況ならばそれはできない。
どちらにしても、さらなる不況を買ったのは間違いないだろうが。
「死者の力を使い、勝手に娘を作り上げておいて、偉そうに」
「確かに、残された石を利用し、私が独断で行動しました。すでに言葉を聞けない者からは意思を確認することもできません。けれど私は、――が生前に子を切望していたことを知っておりました」
主の意思に反したことはしていない。
生前に望みながらも叶わなかった願いを叶えただけだ。
召喚された者としては特に間違った行動ではない。
「父親がお前である必要はなかっただろう。そうすればあの娘はこちらの世界で暮らしていたはずだ」
「いいえ、石を託されたのは私です。私以外にレイに命を与えることはできませんでした」
託されたものが責任を持つ。
他の者に渡すことは、主の意思に沿わない。
それは契約に縛られる者が取るべき行動ではない。
王は別の切り口を探した。
「なぜ事前に報告しなかった。あれは我が一族の血を引く娘だぞ。それは我々に対する不敬ではないのか」
「先ほども申しましたが…」
あえてそう前置きしてから、『彼』は突き放すように言う。
「どんな事情があろうと――は別の世界に属しておりました。
私は『別世界の主』に従う者として『別世界の法則』に従って行動しただけです。
そこに『この世界の王家』への不敬の意思は一切ありません」
王は憎々しげに奥歯を噛み締めた。
再び沈黙が支配する中、王が爆発するのは時間の問題だと思われた。
『彼』はそのタイミングで…再度口を開いた。
「……では、こういたしましょう」
視線を逸らし、譲歩したような口ぶりで。
けれど最初から考えていたことを言葉にする。
「私も陛下も、別世界の法に守られたレイへ直接命令することはできない。
しかしいずれレイも――と同じ力を発揮するでしょう。そして全ての真実を知るために必ず私を呼び出すはず。
その時に彼女自身に選択させましょう。向こうに留まるか、こちらへ来るかを」
たとえ生まれてきたのが他者の意思によるものだとしても。
その先の未来を選ぶのは、レイ自身でなくてはいけない。
だから『彼』は最初から全てを話す気でいた。
けれどそれを王に教えるつもりはない。
……王は。
やろうと思えば、命令はできなくとも、実力行使に出ることは可能なのだ。
まだ無力な異界の娘一人、攫ってくることはそう難しいことではない。
それだけはさせられなかった。
それでは本当に『人形』と変わらなくなってしまう。
我が子にそんな扱いを受けさせたいと思う親がどこにいるだろう。
ぎりぎりの譲歩であると思わせておかなくてはいけない。
これ以上は譲れないのだと。
そしてその目論見は成功した。
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貴方は 人目のお客様
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うさぎ:ライラ、リナ、ルナ、レナ、ロビン
保護者:ロスト
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